クモと同棲した話
ある夏の夜、ソファに寝転がってテレビを見ていた。
眠くなってきたので横になりふと天井を見上げた。
一面真っ白な中に黒い影が見えた。
クモだ
あまりの出来事にそこから動けなかった。
僕は虫全般が嫌いで、昆虫図鑑も触れない。
どうすればいいか必死に考えた。
まずは敵のことを知らなければと思い
「クモ でかい 家」検索
なんとこのクモは見た目に反して無害だったということが分かった。
家に出る大きい蜘蛛は、アシダカグモと言ってゴキブリを食べてくれる強い見方だそうだ。
見た目はかなりでかいし、インパクトはあるのでおそらく初見では相当びっくりすると思う。
見た目の気持ち悪さはなかなかだったが、彼がいる限り家にゴキブリが住みつく事はないし、万が一出現してもたときもおそらく僕と遭遇する前に彼が食べてくれるだろう。
更に巣も作らない種類なので家が汚れる心配もないらしい。
思ったよりも害はなさそうだったので我慢して寝た。
翌朝目が覚めるとまだ彼は天井にいた。
少し移動して天井の電気のカバーの中に入っていた。
彼のおかげでしばらくは家の治安は保証されたので家は任せて外出した。
謎の安心感に包まれて帰宅して天井を見上げた。
彼はまだ電気カバーの中にいた。
ん。。。。。空中に浮いてね。。。
巣作ってんじゃん
困惑した。
僕が自宅警備を任せていたのはアシダカグモじゃなかった。
よく見ると見た目もちょっと違う。
静かに震えた。
こいつはなんだ。
毒はあるのだろうか。
必死になって調べたが結局なんなのかわからなかった。
ただ、特に動き回っている様子もなかったし、何より一度受け入れた彼を今更追い出すわけにもいかない。
それから毎日彼のいる天井を見上げた。
一歩も動かない。
もちろん僕の家には餌となるような虫もいないから巣に引っかかるものもない。
毎日そこにいて何も食べずに大丈夫かと心配にさえなった。
そんなこんなで彼と同棲を初めて1ヶ月ほど経った。
このころから可愛く見えてきた。
文句は一切言わないし、餌も上げなくていいし、天井からは一切動かないからちょうど良い距離感で不快感もない。
愛着さえ湧いてきた。
後輩に提案された名前もつけた。忘れたけど。
ずっと一緒にいるものだと思っていた。
でも、その日は突然やってきた。
朝起きて天井を見上げると、見慣れた黒い影がない。
必死に探した。
家のどこにも彼の姿はなかった。
翌日も、その翌日も彼は現れなかった。
電球カバーには彼が作った巣だけが残されていた。
彼がいなくなってから半年が経ち僕も引っ越すことになった。
家材をすべて出し、家の隅々まで掃除した。
彼の巣だけはそのままにしておいた。
退去立ち会い日。
業者の方が家の隅々をチェクする。
「あの電気カバーどうしたんすか?」
天井を不思議そうに見つめる業者が僕に聞いた。
「クモ飼ってたんすよ。」
「へえ、お兄さんワイルドっすね!」
僕は大学4年間お世話になった部屋に別れを告げた。
そいやあいつ結局何者だったんだろう。